ポスティングの譲渡金は、選手が古巣へ支払うお金ではありません。契約したMLB球団が、選手への契約金・給与とは別に、所属元のNPB球団へ支払います。メジャー契約では保証総額を段階別に計算し、マイナー契約では契約金を基準にするため、まず契約の種類を見分けることが大切です。
海外FAは移籍ルート、「25歳ルール」はMLB側の契約制限です。この2つを分けると、同じNPBからの移籍でも費用や契約条件が違う理由が分かります。
※制度は日本時間2026年10月22日時点。計算例はすべて架空の契約を使い、米ドルで表示しています。
ポスティングと海外FAの違い|球団の承認と譲渡金が分かれ目
ポスティングは、NPB球団に保留されている選手が、その球団の承認を得てMLB球団との契約を目指す仕組みです。海外FA権を取得する前でも利用できますが、本人が希望するだけで手続きを進められる制度ではありません。
一方、海外FAは、資格を満たした選手が権利を行使して、国内外の球団と契約交渉できる制度です。海外FAでMLBへ移籍する場合、ポスティング譲渡金は発生しません。
| 比較項目 | ポスティング | 海外FAでのMLB移籍 |
|---|---|---|
| 利用の前提 | 所属NPB球団による承認・手続き | 海外FA資格の取得と権利行使 |
| 元球団の関与 | 選手をポスティングするか判断 | ポスティングの承認は不要。宣言等の手続きは必要 |
| 交渉の進め方 | ポスティング後、MLB全球団が交渉可能 | FA宣言選手の公示後、所定の時点から交渉可能 |
| 元球団への譲渡金 | 契約したMLB球団が負担 | ポスティング譲渡金なし |
| 25歳ルールとの関係 | 移籍ルートとは別にMLB側で判定 | 海外FA資格そのものがMLB側の契約規則を定めるわけではない |
海外FAの「9シーズン」は、単純な入団9年目ではない
海外FA資格は、原則として出場選手登録が合計9シーズンに達すると取得します。1シーズンの基準は、公式戦期間中の出場選手登録145日以上です。145日に満たない年の登録日数は合算し、145日で1シーズンと数えます。
例えば100日と45日の2年分で、1シーズン分になります。一軍登録の日数を使うため、二軍を含めて9年間在籍しただけで取得できるわけではありません。故障者等の特例もあり、個別選手の資格はNPBの公示で見るのが確実です。
国内FAは国内のNPB球団が対象で、初回取得は原則8シーズン、2007年以降のドラフトで入団した大学・社会人出身者は7シーズンです。また、FA権を行使して球団と契約した選手は、その後4シーズンで海外FA資格を再取得します。MLBでのサービスタイムによるFAや、球団から自由契約になることとも別の仕組みです。
譲渡金は誰が誰に払う?選手の給与と球団の獲得費用を分ける
移籍報道に出てくる「契約総額」と「球団の負担総額」は一致しません。ポスティングなら、選手との契約に加えて元球団への支払いがあるからです。選手の保証額から譲渡金を差し引く計算もしません。
| 項目 | 支払者 → 受取先 | 何を表すか |
|---|---|---|
| 選手の契約金・給与 | MLB球団 → 選手 | 選手との契約に基づく報酬 |
| ポスティング譲渡金 | 契約したMLB球団 → 元のNPB球団 | 選手への報酬とは別の移籍費用 |
| CBTの税金 | 対象MLB球団 → MLBの制度内で徴収 | 球団の年間給与計算が基準額を超えた場合の課税 |
CBT(ぜいたく税)は球団の給与総額に関わる制度です。選手契約の年平均額などを使って計算し、ポスティング譲渡金そのものはCBT対象給与に入りません。ただし、球団が実際に負担する費用であることは変わりません。
そのため、譲渡金込みの支出総額を契約年数で割っても、その選手のCBT年平均額にはなりません。給与総額の集計を見る際も、実支払額なのか、契約の年平均額なのか、CBT向けの計算なのかを区別する必要があります。
譲渡金の計算方法|2,500万ドル・5,000万ドルで区切る
メジャー契約の基本計算は、契約の保証総額を3つの金額帯に分け、それぞれに料率を掛けて足す方法です。報道の「最大総額」に含まれる未達成の出来高などを、そのまま保証総額として使うことはできません。
| 保証総額のうち、計算する部分 | 料率 |
|---|---|
| 最初の2,500万ドルまで | 20% |
| 2,500万ドルを超え、5,000万ドルまでの部分 | 17.5% |
| 5,000万ドルを超える部分 | 15% |
保証総額が2,500万ドル以下なら「保証総額×20%」、2,500万ドル超〜5,000万ドルなら「500万ドル+2,500万ドルを超える部分×17.5%」です。5,000万ドルを超える場合は「937万5,000ドル+5,000万ドルを超える部分×15%」となります。
架空例:保証総額7,000万ドルなら、譲渡金は1,237万5,000ドル
選手との契約が保証総額7,000万ドルで、後払い・出来高・オプション等の追加条件がないとします。この場合は、次の3つを足します。
- 最初の2,500万ドル×20%=500万ドル
- 次の2,500万ドル×17.5%=437万5,000ドル
- 残りの2,000万ドル×15%=300万ドル
合計は1,237万5,000ドルです。選手への保証額7,000万ドルと合わせた基本的な支出は、8,237万5,000ドルになります。ここでは計算の仕組みが分かるよう、丸める前の値を示しています。
「7,000万ドルの契約だから全額に15%」とすると1,050万ドルとなり、正しい計算より187万5,000ドル少なくなります。反対に全額へ20%を掛けると1,400万ドルで、162万5,000ドル多くなります。

保証総額別の基本譲渡金。単位は万米ドル、後払い・追加条件なしの架空例です。2026年10月22日時点のMLB掲載料率から計算しています。
金額帯が変わっても、それまでの部分の料率は変わりません。例えば保証総額が5,000万ドルから5,100万ドルになると、増えた100万ドルに15%を掛けた15万ドルだけ譲渡金が増えます。境界を超えた瞬間に譲渡金全体が下がる仕組みではありません。
出来高・オプション・後払い|「最大総額」だけでは計算できない
基本譲渡金と、後から条件を満たして発生する追加譲渡金は分けて考えます。メジャー契約に含まれるボーナスや給与増額条項は、実際に選手が獲得した額の15%、オプションは行使された場合にその額の15%が追加譲渡金の対象となります。
例えば先ほどの7,000万ドル契約に、基本保証へ含めていない出来高200万ドルと、保証されていない球団オプション1,000万ドルがあるとします。出来高を満額獲得すれば30万ドル、オプションが行使されれば150万ドルが追加され、両方成立した場合の譲渡金は合計1,417万5,000ドルです。
未達成の出来高や未行使のオプションを、契約時点で確定した支払いとして足すのは早計です。また「オプション」という名称だけで非保証とは決められません。選手オプションやバイアウトなど、選手への支払いが保証される条件は、最初の算定対象に含まれるかを確認し、同じ額を二重に加算しないことが大切です。
契約金と年俸、後払いは同じ意味ではない
メジャー契約の基準は年俸だけではなく、保証された契約価値です。契約時に選手へ払う契約金と、その後の給与を分け、双方が保証総額にどう含まれているかを見ます。「契約金」という言葉を、複数年の給与を含む総額の意味で使うと、マイナー契約との計算の違いが見えにくくなります。
後払いは、報酬の受け取りを先へ延ばす契約条件です。CBTでは後払いを現在価値に調整する規定がありますが、そのCBT計算値をポスティング譲渡金へそのまま流用することはできません。
後払いを含む契約の譲渡金を正確に出すには、日米間の協定に基づく算定対象額と契約条件が必要です。一般向けの制度解説だけでは、個別の割引率や利息の扱いまでは確定できません。「名目総額を必ずそのまま使う」「後払いなら必ず譲渡金を減らせる」と一律に判断せず、公表された譲渡金と説明用の試算を区別して読みます。
マイナー契約は契約金の25%|将来の年俸総額とは違う
ポスティングした選手がマイナー契約を結ぶ場合、基本の譲渡金は契約金(サイニングボーナス)の25%です。メジャー契約の20%・17.5%・15%という段階別計算は使いません。
架空の例として契約金600万ドルなら、基本譲渡金は150万ドルです。選手への契約金600万ドルと元球団への150万ドルは別払いで、合計750万ドルになります。この750万ドルには、その後の給与やその他の費用を含めていません。
マイナー契約にメジャーでの契約条件が含まれている場合は、メジャー昇格に伴う追加譲渡金の規定もあります。ただし、最初の契約金25%だけで全ての支払いが終わるとも、将来のメジャー給与すべてへ一律に15%を掛けるとも決められません。追加分の対象・発生条件は、適用協定と個別契約による確認が必要です。
契約の種類と登録枠の関係は、メジャー契約・マイナー契約の仕組みを解説した記事で詳しく整理しています。
25歳ルールは「25歳以上」と「海外プロ6シーズン」の両方を見る
通称「25歳ルール」は、海外から初めてMLB傘下へ入る選手について、国際アマチュア契約のボーナスプール制限が関係するルールです。NPBでプロとして活躍していても、MLBの契約制度上はこの区分に入る場合があります。
外国プロ選手としてこの制限の対象外になるには、原則として25歳以上で、かつMLBが認める海外リーグでプロとして最低6シーズンをプレーしていることが必要です。年齢だけでも、単なるプロ契約からの経過年数だけでも判定できません。
| 新規契約時の条件例 | 外国プロ選手としての適用除外 |
|---|---|
| 24歳・認定対象のプロ歴6シーズン | 年齢条件を満たさない |
| 25歳・認定対象のプロ歴5シーズン | プレー歴の条件を満たさない |
| 25歳・認定対象のプロ歴6シーズン | 両条件を満たす |
年齢は契約時に条件を満たしているかを見ます。「移籍する年のどこかで25歳になる」だけで、その年の初めから制限がなくなると考えることはできません。6シーズンの認定もNPBの海外FA用の145日計算とは別で、登録形態や不出場年を含む個別の履歴を、入団年からの引き算だけで確定させないことが大切です。
ボーナスプールは球団の契約金枠で、譲渡金とは別
ボーナスプールの対象選手は、最初にマイナー統一契約を結びます。契約金は各球団に配分された国際契約金枠の制限を受けるため、一般の大型メジャーFA契約と同じ競り上がり方にはなりません。枠は球団が複数の対象選手へ使うもので、全選手共通の固定された個人上限ではありません。
元NPB球団への譲渡金は、この選手本人向けの契約金とは別の支出です。例えば契約金600万ドル・基本譲渡金150万ドルなら、契約金枠と比べるのは基本的に選手向けの600万ドルであり、750万ドルではありません。
現在の国際契約期間は原則1月15日〜12月15日です。ポスティングの交渉期間と両方を満たす必要があるため、球団の残りの契約金枠だけでなく、いつ契約できるかも重要になります。
25歳未満でも移籍は可能で、マイナー契約で入った後にメジャーでプレーする道もあります。ただし、契約時に将来の大型契約や特定日までのメジャー登録を約束して制限を回避する行為は禁止されています。移籍後に25歳になっただけで、既存契約が自動的に大型契約へ切り替わるわけでもありません。
反対に、両条件を満たすことは契約金枠の制限が外れるという意味です。元NPB球団の保留権やポスティングの承認を消すものでも、大型契約を保証するものでもありません。移籍できる手続きと、結べる契約の種類を別々に見ると混乱を防げます。
交渉期間は45日|契約不成立なら翌季はNPBへ
現行のポスティングでは、MLB全球団が45日間の交渉期間を持ちます。契約に至らなければ、選手は翌シーズンも所属NPB球団へ戻り、次のオフまで再ポスティングはできません。希望しただけでFAになったり、別球団と期限後も自由に契約できたりする制度ではありません。
古い事例には、交渉期間や譲渡金の決め方が異なるものがあります。現在の段階別料率は2018〜19年オフからの仕組みで、過去の移籍へ機械的に当てはめることはできません。実際の交渉では、その年の公示と契約期限を確認する必要があります。
移籍のニュースを読む順番は、①ポスティングか海外FAか、②MLB側の国際契約制限があるか、③保証額・追加条件と譲渡金はいくらか、の3段階です。選手への評価が同じでも、この順番で条件を整理すれば、本人の報酬と球団の支出が違う理由まで読み取れます。
個別選手の動向は、2026年オフのNPBからMLBへの移籍候補と、NPB選手のMLB挑戦候補一覧で扱っています。


