吉田正尚にDFAの可能性が取り沙汰されています。ただ、今オフの去就を考えるうえで重要なのは、「打者として必要とされるか」と「年俸1,800万ドルの契約を引き受けてもらえるか」は別の問題だという点です。2026年には出塁率を戻しており、契約条件と起用法が変われば、MLBで再び役割を得る余地はあります。
※去就・契約は日本時間2026年10月28日時点。成績は各年のレギュラーシーズン確定値です。将来の移籍・起用の見通しは本記事の考察です。
吉田正尚のDFA説は地元記者の予測、球団の決定ではない
まず、DFAが決まったという発表は出ていません。今回の話題は、地元メディア「MassLive」のクリス・コティーロ記者による戦力編成の予測を、日本時間10月28日にFull-Countが紹介したものです。
その見立ての中心は、吉田の打撃に価値があっても、ボストンの選手構成には収まりにくいという点です。外野の編成を整理し、DHにもより強い打者を置くという予測であり、具体的なトレード合意や、球団がDFAを通告したという報道とは区別する必要があります。
筆者も、吉田の去就は打率だけでは説明できないと考えます。出場機会を増やせば打撃成績が上向く可能性はありますが、その機会を与えるために、球団が誰の打席を減らすかまで考える必要があるからです。
実績は十分、2026年は「出塁の回復」と「長打不足」が同居
吉田の強みは、打席で簡単に崩れず、安打と出塁を積み重ねる力です。オリックス時代には2020、2021年と2年連続で首位打者を獲得し、2022年も打率.335、21本塁打、出塁率.447を残しました。MLBでも1年目の2023年は140試合に出場し、打率.289、15本塁打、72打点を記録しています。
| 年 | 試合 | 打率 | 本塁打 | 出塁率 | 長打率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023 | 140 | 0.289 | 15 | 0.338 | 0.445 |
| 2024 | 108 | 0.280 | 10 | 0.349 | 0.415 |
| 2025 | 55 | 0.266 | 4 | 0.307 | 0.388 |
| 2026 | 87 | 0.274 | 5 | 0.347 | 0.399 |
対象:MLBレギュラーシーズン。率は小数第3位表示、本塁打は本。出典:Baseball Savant。
2026年は87試合で打率.274、5本塁打、28打点、OPS.746でした。前年の55試合から出場数を増やし、出塁率は.307から.347へ回復しています。一方、長打率は.399で、2023年の.445には戻っていません。

2023〜2026年レギュラーシーズンの確定値です。出塁率は2024年に近い水準へ戻りましたが、長打率は2023年を下回っています。出典:Baseball Savant。確認日:2026年10月28日(日本時間)。
297打席で33三振、28四球という内容にも、持ち味は残っています。三振率は約11.1%で、四球数も三振数に近く、バットに当てる力と出塁には再評価の材料があります。ただし、三振が少ないことと、相手投手に長打を警戒させられることは別です。
打率.274だけなら打線の補強に使えそうでも、DHとして起用する場合は5本塁打という数字の重みが増します。2026年のOPSランキングと日本人選手の成績も、出塁と長打を分けて読むと、吉田の評価が割れる理由を捉えやすくなります。
ボストンでの難しさは、年俸に加えてDH枠を使うこと
吉田を起用するコストは、給与だけではありません。2026年の先発67試合のうち62試合がDHで、左翼での先発は5試合でした。外野でも日常的に使える選手と比べると、打線へ組み込む方法が限られます。
ボストンにはローマン・アンソニー、ジャレン・デュラン、セダン・ラファエラ、ウィリヤー・アブレイユらの外野手がいます。こうした選手の休養や負担軽減にDHを使いたい日にも、吉田を先発させれば、その枠を譲る必要があります。
そのため、外野手を1人トレードすれば吉田の問題も解決する、とは限りません。空いた守備位置を吉田が継続して担えなければ、DHの競争は残ります。球団が判断するのは、吉田自身の打撃と、DHを他の選手へ回した場合の打線全体の上積みです。
8月には左ハムストリングを痛め、レギュラーシーズンの復帰はかないませんでした。打撃を上げた後も出場を続けられるかという健康面は、獲得を考える球団にとっても外せない評価項目になります。
トレード成立の鍵は、残り1年・1,800万ドルをどう分担するか
吉田の契約は2023〜2027年の5年総額9,000万ドルで、残るのは2027年の年俸1,800万ドルです。過去のオフより残り期間が短くなったことは、獲得側の長期リスクを小さくします。ただ、それだけで全額を引き受ける相手が現れるとは考えにくいところです。
筆者が現実的な交渉の軸と見るのは、レッドソックスが年俸の一部を負担し、獲得側の支払額を下げる形です。買い手が「1,800万ドルの主力打者」としてではなく、「費用を抑えて打線を補う左打者」として評価できれば、検討の余地は広がります。
受け皿になりやすいのは、左の打撃を補いたく、吉田に一定のDH出場を用意できる球団です。逆に、DHを主力の休養枠として頻繁に使う球団や、外野守備も含めて補強したい球団では、安くなっても起用の難しさが残ります。
交渉を難しくするのは、相手に「いずれ自由契約になれば、さらに少ない負担で契約できるかもしれない」という待つ理由があることです。ボストンは負担額を下げたい一方、買い手は放出後の市場と比べます。トレードを先に成立させるには、獲得側にも、他球団との争奪を避けて吉田を確保する利点が必要です。
有望株を付けて契約を引き取ってもらう案も仕組みとしてはありますが、給与削減のために将来の戦力まで失う取引が得とは限りません。吉田単独で大きな交換要員を得る期待より、どの程度の支出を減らし、どの枠を空けられるかが交渉の中心になると見ます。
DFA後もMLB移籍の余地はある、契約の重さと選手の価値は変わる
DFAは40人枠から外す措置で、それだけで直ちに自由契約になるわけではありません。球団は原則7日以内に、トレードやウェーバーによる手続きへ進みます。ウェーバーで他球団が引き取る場合と、自由契約後に新しく契約する場合では、給与の扱いも異なります。
自由契約となっても、保証された残り年俸が自動的に消えるわけではありません。一般に元球団に支払義務が残り、別のMLB球団は最低年俸相当の負担で獲得できる場合があります。つまり、ボストンが高い年俸に見合わないと判断しても、別球団が低い負担で戦力として評価することは両立します。
ただし、費用が下がってもロースター枠と打席は必要です。自由契約後のMLB移籍を目指す場合も、球団名より、メジャー契約なのか、どれだけDHや左翼で出場できるのかが重要になります。
残留・MLB移籍・日本復帰、それぞれで必要な条件が違う
| 進路 | 実現の条件 | 吉田にとっての焦点 |
|---|---|---|
| レッドソックス残留 | 他の補強・放出後も打席を確保できる | DHを任せるだけの打撃を示せるか |
| 年俸負担を伴うトレード | 給与分担と獲得側の起用方針が合う | 継続して出場できる移籍先か |
| 自由契約後のMLB移籍 | 費用が下がり、契約と枠を用意する球団が現れる | 契約形態と開幕時の役割 |
| 日本球界復帰 | MLBとの契約関係を整理し、本人とNPB球団の条件が合う | 中軸としての出場機会と保証 |
筆者は、まずMLB内で役割を探す余地を重く見ます。2026年の出塁率.347は打線を補う材料になり、契約負担が下がれば検討できる球団も変わるためです。ただ、残留と移籍のどちらでも、健康と出場機会の課題は解消する必要があります。
日本復帰も選択肢ですが、DFA説だけでオリックスなど特定球団への復帰へ結び付ける段階ではありません。残るMLB契約の扱いに加え、本人がどの舞台で、どの役割を求めるかが先になります。
今冬は米国時間12月1日に現行労使協定が期限を迎えます。交渉の行方によって移籍手続きが遅れるリスクもあり、所属先の判断には時間の要素も加わります。背景は2026年オフの日本人MLB選手の去就とロックアウトの影響で整理しています。
再起の分かれ目は、出塁率.347に長打と継続出場を足せるか
次に注目したいのは、打率が3割に届くかより、長打率を上げながら出場を続けられるかです。三振を抑えて出塁する土台に、2023年の長打率.445へ近づく打球が戻れば、DHとしての評価も変わります。
左翼での出場を増やせる状態かどうかも重要です。守備で使える日が増えれば、DHを他の主力へ回せるため、打線への組み込み方が広がります。打撃の上積みだけでなく、球団が起用しやすい状態を取り戻せるかが再起を左右します。
吉田の今オフは、契約の総額を振り返るより、来季の打席をどこで確保するかを見るべきです。出塁の回復を継続的な出場につなげ、長打も戻せる環境を得られるか。それが、DFA説の先にある最も大きな分岐点だと考えます。

