野球用語に「殺」「刺」が多いのはなぜ?由来と見直しの動きを解説 | TOKYO リーマン NOTE

野球用語に「殺」「刺」が多いのはなぜ?由来と見直しの動きを解説

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野球用語の殺と刺の由来と見直しを、グラブ・ボール・スコアブックで表現したモノトーン画像 その他

「刺殺」「併殺」「盗塁」――野球では、日常会話なら強く響く漢字が、好プレーを伝える言葉として使われます。背景には、明治期にベースボールを日本語で説明してきた歴史があり、近年は宮城県高野連が用語の見直しを呼びかけています。言葉が定着した経緯と、現在の指導にふさわしい声かけかどうかを分けると、この議論は理解しやすくなります。

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「殺」「刺」は何を指す?まず記録と声かけを整理

野球で使う「殺」は、主に打者や走者をアウトにすることを表します。ただし、「刺殺」「補殺」は個人に付く守備記録、「併殺」は一連のプレーで成立する複数のアウトを表す言葉で、同じものではありません。

用語野球での意味英語の対応表現
刺殺捕球や触球などでアウトを完成させた野手などに付く記録Putout(PO)
補殺送球などでアウトの成立を助けた野手などに付く記録Assist(A)
併殺一連のプレーで二つのアウトを取ることDouble play(DP)
盗塁安打などによらず、走者が次の塁を奪う走塁の記録Stolen base(SB)
死球投球が打者の身体などに当たり、規則の条件を満たして一塁が与えられることHit by pitch(HBP)

意味は基本的な場面に絞った説明です。刺殺・補殺には、実際の捕球・触球がない場合などの記録上の例外もあります。

例えば遊撃手がゴロを捕って一塁へ送球し、一塁手が捕球して打者走者をアウトにした場合、遊撃手には補殺、一塁手には刺殺が付きます。外野手がフライを捕った場合も刺殺です。「刺殺」は、走者にタッチするプレーだけを指す言葉ではありません。

一方、「二塁で刺せ」という声かけは、二塁で走者をアウトにしようという意味です。捕手の送球による盗塁阻止を「刺した」と表現しても、その捕手に付くのは通常は補殺で、タッチした野手に刺殺が付きます。日常的な野球の言い回しと、記録用語としての定義には違いがあります。

由来は明治期の翻訳と比喩――一人が全用語を作ったわけではない

中馬庚の「野球」と、正岡子規の訳語

野球殿堂博物館の年表は、1894年に中馬庚がベースボールを「野球」と訳したとしています。正岡子規も野球の紹介や用語の翻訳に関わりましたが、「野球」という競技名と、個々の記録用語の成立は、それぞれ別に考える必要があります。

1896年の子規の随筆『松蘿玉液』には、「打者」「走者」「死球」などが登場します。その一方で、アウトには「除外」という訳を当てていました。現在使われている漢字の用語が、最初から一式そろっていたわけではありません。

「殺す」という説明は「併殺」の定着より前にあった

1897年刊行の中馬の著書『野球』では、ダブルプレーを二人を一度に「殺す」という趣旨で説明し、塁を奪う行為も「盗む」と表現しています。日本大学の戸内俊介教授による文献検討では、「併殺」という表記の定着は、それより後の明治末期ごろと考えられています。

この順序から分かるのは、完成した専門用語を覚えた結果として声かけが生まれた、とだけは説明できないことです。プレーを説明する比喩が先に使われ、後から短い記録用語としてまとまっていった面もあります。

「殺す」は相手の攻撃を終わらせること、「盗む」は相手の隙を突いて塁を得ることを、短く印象的に伝えられます。そうした比喩が競技の説明になじんだことが、これらの言葉を理解する手掛かりになります。

ただし、ここから「刺殺」の「刺」が選ばれた正確な経緯や、すべての用語の考案者まで特定することはできません。「正岡子規が全部作った」「戦時中に軍事用語として生まれた」と一括りにすると、異なる時期・経路で成立した言葉を取り違えます。少なくともアウトを「殺す」と説明する用法は、明治期の資料にすでに見られます。

宮城県高野連の見直しはどこまで進んでいる?

宮城県高野連は2025年7月10日、「野球用語を考えてみませんか?」という呼びかけを公開しました。野球の普及振興を進める中で、現代にふさわしいか考えたい言葉があるとして、代わりの表現を募集したものです。

資料では、一死・二死、犠牲バント・犠牲フライ、併殺・三重殺、刺殺・補殺・挟殺、死球・盗塁を例示しています。用語そのものに加え、試合中の「刺せ」「殺せ」「盗め」といった声かけにも問題を提起しました。

時期取り組み・報道位置付け
2025年7月10日宮城県高野連が呼びかけと代替用語の募集を公開用語を考える問題提起
2026年7月秋にも検討委員会を設け、翌春に指導者へ結果を伝える予定と報道検討の方針・予定
2026年11月7日時点今回参照した公表資料では、最終的な置換用語や全国一律の変更決定は示されていません決定済みの規則変更とは区別

ここで気を付けたいのは、地域の連盟による提案、指導現場での言い換え、全国共通の公式記録用語の変更は、別の段階だということです。「秋にも設置」という報道だけで委員会の開催済みを断定したり、候補として話題になった言葉を正式採用と扱ったりすることはできません。

今回の動きは、既存の言葉が直ちに禁止されたというニュースとして読むより、高校生を指導する際にどのような表現を選ぶかという議論として捉えると、焦点がはっきりします。

英語に変えれば解決する?MLBの表現から見える違い

日本語の「併殺」に対応する英語はDouble playです。「一死」を「ワンアウト」、「併殺」を「ダブルプレー」と呼べば、少なくとも「死」「殺」という漢字を使わずに同じ状況を伝えられます。すでに野球で広く使われている表現なので、新しい言葉を一から覚える負担も小さくなります。

ただし、英語にも比喩はあります。「盗塁」はStolen baseで、英語でも「盗む」という発想を含みます。「犠牲バント」に対応するSacrifice buntも、犠牲を意味する言葉です。漢字をカタカナへ置き換えることと、比喩そのものを変えることは同じではありません。

また、日本で死球を指す「デッドボール」と、規則上プレーが止まっている状態の「ボールデッド」は区別が必要です。MLBの死球の記録はHit by pitchであり、英語のdead ballを死球だけの意味で使うと、対応関係がずれます。

用語の見直しでは、字面の印象に加え、何を表す言葉なのか、初めて野球を見る人にも通じるかを考える必要があります。なじみの薄いカタカナを増やすだけでは、入門者にとって別の壁になる可能性もあります。

見直しの意義と難しさ――指導、実況、公式記録で答えは違う

指導中の声かけは、今でも具体的にできる

見直しに意義があるとすれば、子どもや初心者にとって入りやすい環境を考えるきっかけになる点です。野球経験者には特別な意味を持たない言葉でも、初めて球場に来た人には強く響くことがあります。

例えば「殺せ」より「一塁でアウトを取ろう」、「刺せ」より「二塁へ正確に投げよう」と伝える方が、練習では目指す動作を共有しやすい場面があります。これは本記事で考える声かけの例で、連盟が決定した置換用語ではありません。状況を判断して短く伝える必要がある試合中と、動作を教える練習中では、適した言い方も変わります。

定着した専門用語には、意味を共有できる利点がある

一方で、「刺殺」を使う人が暴力を肯定しているわけではありません。競技の中で固有の意味を持つ言葉として定着しており、その文脈まで無視して漢字だけを評価すれば、長く野球に親しむ人が違和感を覚えるのも理解できます。

公式記録を変える場合には、過去の記録、規則書、スコアの付け方、記録システムとの対応も必要です。特に刺殺と補殺をどちらも単に「アウト」と呼べば、誰がどの役割を担ったのかという情報が薄れます。名称を変えるとしても、記録の区別は維持しなければなりません。

さらに、呼び方を穏やかにしただけで、威圧的な指導が改善するとは限りません。声量、口調、失敗への接し方まで含めて考えることが、選手にとっての変化につながるはずです。

まず「使い分け」から考えると、議論は前に進む

筆者は、指導での声かけを具体的にすること、実況や入門記事で分かりやすい表現を選ぶこと、公式記録の名称を変えることを、段階を分けて進めるのが現実的だと考えます。前の二つは、全国共通の用語変更を待たずに工夫できるからです。

例えば記事では「一死」を「1アウト」、「併殺」を「ダブルプレー」と表現できます。一方、守備成績を説明するときは「刺殺」「補殺」を残し、意味を添える方が正確です。歴史を紹介する場面では、当時の用語をそのまま示す価値もあります。

用語変更で野球人口が増えるかは、今後の検証が必要です。取り組みを評価するなら、初心者が説明を理解しやすくなったか、選手が指導を受けやすくなったかといった、現場の反応を見たいところです。

歴史ある言葉を知ることと、今の相手に伝わる表現を選ぶことは両立します。どの漢字を消すかだけでなく、誰に、どの場面で、何を伝えたいのかを考えることが、この議論を野球の魅力につなげる入口になります。

守備記録の意味から、選手の評価の違いにも関心が広がった方には、2026年のゴールドグラブ賞と鈴木誠也の評価を考察した記事も参考になります。アウトにした回数を数える記録と、守備範囲などを評価する指標の違いを考える材料になります。

参考情報

見直しの進捗は2026年11月7日時点の公表資料・報道に基づきます。

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TOKYOリーマン

野球好きの30代サラリーマン / 趣味は野球観戦・読書 / 現在子育てに奮闘中 / 野球関連のデータ分析・考察記事を発信します

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